コアな名作を輩出し続けているアフタヌーンですが、その中から1作だけを挙げるならやはり「寄生獣」ではないでしょうか。
その雑誌の最高傑作を生みだすことがその雑誌の役割だとすると、アフタヌーンは創刊直後にしてその役割を達成してしまったのかもしれません。
とはいえ、アフタは「寄生獣」の後も名作を輩出していっていますよね。
もうすぐ創刊40周年を迎えるアフタヌーンの歴代看板作品を振り返ることで、その軌跡を追ってみたいと思います。
月刊アフタヌーンについて
月刊アフタヌーンは講談社の週刊青年誌であるモーニングの派生誌としてスタートしましたが、その立ち位置は独特です。
というのも、独自路線のアフタには明確な競合誌がありません。講談社・小学館・集英社の3大出版社にはお互いに競合のマンガ雑誌を擁立し合う流れがあるのですが、アフタに相当する雑誌が他社には無いのです。
強いて言うと月刊!スピリッツとウルトラジャンプが近いかもしれませんが、派生元から考えるにこれらは月刊ヤングマガジンの競合に近いです。
読者層が被る競合同士のマンガ雑誌を講談社・小学館・集英社の順で並べます。
- 週刊少年誌:週刊少年マガジン / 週刊少年サンデー / 週刊少年ジャンプ
- 週刊ヤング誌:週刊ヤングマガジン / ビッグコミックスピリッツ / 週刊ヤングジャンプ
- 月刊ヤング誌:月刊ヤングマガジン / 月刊!スピリッツ / ウルトラジャンプ ( 週刊ヤング誌から派生 )
- 週刊・隔週刊青年誌:モーニング・イブニング / ビッグコミック・オリジナル・スペリオール / グランドジャンプ
月刊アフタヌーンはモーニングから派生した月刊青年誌ですが、小学館・集英社に競合誌がありません。
なお、小学館・集英社に限定しなければハルタ ( 青騎士 ) やコミックビームなど近い雑誌はありますが、いずれも比較的ニッチな読者層を抱えていそうです。
~90年代:創刊直後のスタートダッシュ
そんなアフタヌーンですが、創刊は1986年。3大週刊少年誌が1950~60年代に創刊したのと比べると、かなり後発です。
創刊間もない1988年に「ああっ女神さまっ」が連載開始。その後2014年の連載終了まで26年間看板作品を張り続けました。
そして1年後の1989年には「寄生獣」の連載が始まります。連載直後から一気に人気に火が付き、2枚看板で雑誌を引っ張っていきました。
1995年に「寄生獣」が完結してからはしばらくスマッシュヒットに恵まれませんでしたが、「ああっ女神さまっ」に次ぐ扱いだった「無限の住人」・「地雷震」・「勇牛」が「寄生獣」の穴を埋めました。
一番早くに完結してしまった「地雷震」、イブニングに移籍してしまった「勇牛」ではなく、20年間誌面を支えた「無限の住人」こそが3作目の看板作品だとこの記事では扱いたいと思います。
【~90年代の看板マンガ】
- 80年代終盤:ああっ女神さまっ
- 90年代前半:ああっ女神さまっ / 寄生獣
- 90年代後半:ああっ女神さまっ / 無限の住人
1. ああっ女神さまっ ( 藤島康介 ) : 1988 ~ 2014年 / 全48巻
創刊直後のマンガ雑誌はどうしてもラインナップが弱くなりがちなので、他誌から人気作家を呼ぶことがよくあります。
月刊アフタヌーンはモーニングから分岐した雑誌ということもあって、モーニング・パーティー増刊で「逮捕しちゃうぞ」が人気だった藤島康介を引っ張ってきました。
ああっ女神さまっは26年間の長期連載の中で絵柄変化が激しかった印象ですが、その時々の美少女絵柄を追及していたのでしょうか。逆にメカ作画は26年変わらない安定感でした。
本記事で取り上げる他作品もそうですが、血なまぐさかったりギスギスしていたり「重い」作品がアフタには多いです。その中で本作は良い箸休めであり続けました。
2. 寄生獣 ( 岩明均 ) : 1989 ~ 1995年 / 全10巻
寄生獣は岩明均の連載2作目で、元々モーニングオープン増刊にて1988年に連載開始した作品です。翌1989年にアフタに移籍してきました。
連載2作目で、しかもモーニング増刊からアフタへの移籍というのは、意外にも「ああっ女神さまっ」と全く同じですね。ただ当時の期待度は、寄生獣の方が明らかに小さかったようです。
それでも寄生獣は連載間もなく一気に人気が出て看板作品となります。作者本人によると、マンガの作り方を変えたのが功を奏したそうです。前作では人物ベースで物語を紡いでいたのを、「寄生獣」では出来事ベースに変えたとのこと。
マンガ好きから高評価の隠れた名作のような扱いを長年を受けていましたが、それはメディアミックスがされず人目に触れる機会が少なかったからでした。
権利関係がクリアになって2014年にようやく実現したアニメ化・実写映画化は、20年来ずっと狭かった作品の間口を広げました。本作のいちファンとして、当時のブームはうれしかったです。
3. 無限の住人 ( 沙村広明 ) : 1993 ~ 2013年 / 全30巻
アフタと言えば四季賞ですよね。アフタ主催の新人賞です。他誌で活躍している人なのに「え、この人も四季賞出身?!」ということがよくあります。
沙村広明は四季賞からアフタに定着した最初の大物作家ではないでしょうか。その意味で、この無限の住人こそが、初めての純アフタ産の看板作品だと言えそうです。
20年間誌面を支え続けましたが、本編連載終了後にはスピンオフである「無限の住人 ~幕末ノ章~」が開始しています。これは「ああっ就活の女神さまっ」と同じ構図ですね。
完結後の実写映画化・再アニメ化は記憶に新しいです。20年以上前に連載開始した作品のメディアミックス展開は寄生獣とも被りますね。この辺の共通点は同じアフタの看板としての待遇のように思えます。
00年代:2003年が当たり年
岩明均の「寄生獣」が1995年に完結して以降、アフタはなかなかスマッシュヒットに恵まれません。
そうこうしているうちに、2003年に岩明均が「ヒストリエ」を引っ提げてアフタに凱旋します。現在も連載が続くこの作品がそのまま次の看板に収まります。
そして面白いことに、同年に「おおきく振りかぶって」も開始しました。本作のスタートダッシュはすさまじく、面白いという評判が広まるや否やアニメ化・マンガ賞受賞と立て続けで、非常によく売れました。
さらに2年後の2005年には「ヴィンランド・サガ」が連載開始。本作も現在まで約20年連載が続いており、ここまで寄生獣を除く全看板作品が20年選手というのもアフタの特色と言えそうです。
【00年代の看板マンガ】
- 00年代前半:ああっ女神さまっ / 無限の住人 / ヒストリエ / おおきく振りかぶって
- 〃 後半:ああっ女神さまっ / 無限の住人 / ヒストリエ / おおきく振りかぶって / ヴィンランド・サガ
1. ヒストリエ ( 岩明均 ) : 2003年 ~ 連載中
アフタの公式によると、ヒストリエは岩明均がデビュー前から温めていた物語とのことです。
史実を調べると分かるのですが先々の展開を見越した伏線が本当に数多く、この作品に対する作者の思い入れは相当なものだと伺えます。「雪の峠・剣の舞」と「ヘウレーカ」も、明らかにヒストリエの習作ですしね。
ただ、展開の遅さには本当にじれったい思いです。「この作品が載っているから買う!」というドライブを読者にかけるのが看板作品の役割だとすると、休載の多い本作はその役割を担い切れていないかもしれません。
それでも「ヒストリエの掲載誌」という事実その1点だけでアフタの価値を押し上げているのが、この作品のスゴさだと思います。
2. おおきく振りかぶって ( ひぐちアサ ) : 2003年 ~ 連載中
マンガには色んなジャンルがありますが、その中でもスポーツマンガというのは一番メジャーなジャンルの1つでしょう。その中でも野球は、最も描かれてきた題材ではないでしょうか。
つまり、野球マンガは飽和状態なわけです。その中で何故おお振りが評価されたのかと言うと、この作品が異色な野球マンガだったから、というのに尽きると思います。
本作の主人公は高校のエースピッチャーです。ここまではお決まりの設定でしょうが、主人公の性格がビクビクオドオドという新しすぎる設定。それに加えて、作者のソフトボール経験とスポーツ心理学知識を活かした異常に細かい野球描写。
こうした異色ぶりがウケて連載直後に一気にブームになりました。その細かすぎる描写のせいで展開が遅く、今ではブームもトーンダウンしてしまいましたが、当時はアフタの看板として雑誌を牽引しました。
ちなみに、ヒストリエと同じく本作も作者が温め続けた題材とのことです。
3. ヴィンランド・サガ ( 幸村誠 ) : 2005年 ~ 連載中
ヒストリエ・おお振りに続き、このヴィンランド・サガも作者が温めてきた題材のようです。こちらの記事がすごく良いインタビュー記事なので是非ご覧ください。
幸村誠はモーニングで連載していたデビュー作「プラネテス」がいきなりヒット。その作者肝煎りの新作が少年マガジンで始まる、と期待されていましたのですが、結局遅筆が原因で月刊誌のアフタに移籍してきました。
しかしながらこの移籍は大正解でした。史実があって先の展開が決まっているため慎重な構成が必要ですし、画力が高いので時間をかけた画で読みたいです。そもそもテーマが少年マンガの範疇に収まらないというのもあります。
ちなみに、このヴィンランド・サガも超長期連載ですが、ヒストリエ・おお振りよりは先に完結しそうです。
これまで読み続けてきて思うのですが、この長い物語を構想したのは随分昔だというのに、それをこれだけの年月をかけて熱量落とさず描き切る姿勢には本当に脱帽です。
10年代:ヒット作多数も看板作品は不作
2010年代のアフタは、看板作品の長期連載化が最も顕著な時期でした。
20年以上続いた「無限の住人」と「ああっ女神さまっ」がそれぞれ2013年と2014年に完結しましたが、それでも「ヒストリエ」・「おおきく振りかぶって」・「ヴィンランド・サガ」は ( この頃はまだ ) 終わる気配が全くありません。
アフタは地力のある雑誌ですのでヒット作は多数出てくるのですが、なかなか看板作品を突き破る作品には恵まれず、2000年代のジャンプと似たような状況でした。
そうした状況の中で、先の看板作品に並ぶところまで唯一たどり着いたと言えるのは「ブルーピリオド」ではないでしょうか。マンガ大賞受賞をきっかけに、コラボCMやアニメ化など一気に露出が増えました。
今の連載陣はかなり充実していますので、第2・第3の看板作品も期待したいところです。
10年代の看板マンガ
- 10年代前半:ヒストリエ / おおきく振りかぶって / ヴィンランド・サガ / ああっ女神さまっ / 無限の住人
- 〃 後半:ヒストリエ / おおきく振りかぶって / ヴィンランド・サガ / ブルーピリオド
1. ブルーピリオド ( 山口つばさ ) : 2017年 ~ 連載中
今の時代、看板作品まで昇りつめるにはバズる必要があると思います。そうなると、10代・20代に受けるマンガが有利そうです。
ブルーピリオドの題材は藝大受験と、10代に刺さるマンガです。もし自分が今10代でブルーピリオドを読んだなら、きっと励まされたような気がするでしょうし、勉強に対するモチベーションが上がったと思います。
言わずもがな面白いマンガですので、全年代におススメなのには違いないです。しかし、今の時代にマッチしたバズりやすい題材というのはアドバンテージになっているかもしれません。
現在は大学生マンガに転身した感もありますが、変わらず面白いです。アフタは「げんしけん」以来、大学生マンガがロスでした。
飄々としているように見えて、そのじつ人間関係に苦しむ等身大の学生が主人公というのはまさにアフタらしいです。
ああっ女神さまっ / 寄生獣 から ブルーピリオド までの年表
それぞれの連載時期をまとめてみました。
アフタの看板作品の特徴は、寄生獣・ブルーピリオドを除く全作品が20年レベルの超長期連載であることです。
ヴィンランド・サガはちょうど20年を少し超えるかくらいで終わる可能性が高いですが、ヒストリエ・おお振りは30年も視野に入ってきそうですね…。
看板作品の記事ということで厳選した7作のみについて語りましたが、アフタには面白い作品が本当に多いです。マンガ好きなら、この雑誌は今後も注目です。
以上です!